2025.03.31生命保険文化センター様のHPにて「知っておきたい不動産の相続税関連新知識」についてエッセイを執筆しました(2025.03)
土地・建物を相続する際の相続税の取扱いのうち、「小規模宅地等の特例」は有名です。この特例は、亡くなった方(以下「被相続人」)が居住用や事業用に使用していた宅地を相続した場合に、一定の要件を満たすことで相続税評価額が減額される制度で、例えば、一定の自宅用地である特定居住用宅地等では330㎡まで評価額の80%が減額となるなど、比較的大きな効果が見込めます。
しかし、相続の現場では、相続税の負担軽減より円満な遺産分割が優先されるケースも多くあります。こうしたニーズの広がりに対応する新しい制度として、利用頻度が高いものに「配偶者居住権」と「空き家特例」があります。
1.配偶者居住権
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者(以下「配偶者」)が、相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、生涯または一定期間、配偶者にその居住等を認める権利で、2018(平成30)年の民法改正により2020(令和2)年4月に創設されました。
この権利は、次のいずれかにより取得することができます。
〉相続人間の話し合いによる遺産分割
〉配偶者居住権に関する遺言がある場合(遺贈)
〉配偶者居住権に関する死因贈与契約書がある場合
〉家庭裁判所による審判(相続人間で遺産分割の話し合いが整わない場合)
(1)配偶者居住権の評価
配偶者居住権を設定すると、自宅の土地・建物の評価は「配偶者居住権」分と、「配偶者居住権付きの建物・敷地」分に分けられます。そして、配偶者居住権は、建物の耐用年数、経過年数、存続年数(配偶者の平均余命に応じた年数)、法定利率による複利原価率をもとに計算されます。例を挙げて見てみましょう。
〈例〉
・相続税評価額:建物2,000万円、土地5,000万円
・建物:木造住宅(耐用年数33年、経過年数10年)
・相続開始年月:2025(令和7)年1月
・遺産分割時の配偶者(女性)の年齢:80歳(平均余命12年)
・法定利率:3%(12年の複利原価率0.701)
この例の場合、所定の計算式に当てはめると、それぞれの評価額は次のとおりになります。
・建物…配偶者居住権:約1,330万円
配偶者居住権付き建物:約670万円
・土地…配偶者居住権の敷地利用権:約1,500万円
配偶者居住権付き建物の敷地:約3,500万円
<参考:国税庁「配偶者居住権等の評価」>
つまり、この例では、配偶者居住権を設定して相続する場合、建物・土地の相続税評価額合計7,000万円に対し、配偶者分が2,830万円、他の相続人分が4,170万円となります。
(2)配偶者居住権のメリット・デメリット
配偶者居住権には、メリット・デメリットがあるため、設定にあたっては十分な検討が必要です。
主なメリットは次のとおりです。
〉配偶者の居住場所の確保ができること
〉配偶者の逝去により配偶者居住権は消滅し、2次相続では相続税が課税されないこと
〉財産が自宅だけであった場合、他の相続人に配偶者居住権付き建物・敷地の所有権(以下「所有権」)を渡すことで、遺産分割のバランスを取ることが容易となり、代償金を支払う義務がなくなること
〉配偶者が居住権として自宅の権利を取得することで、相続税の軽減が図れる可能性があること
一方、デメリットとして主なものは次のとおりです。
〉配偶者居住権は譲渡することはできず、また、所有権がある者も勝手に譲渡は行えないこと
〉配偶者が居住権を放棄して対価の支払いを受けない場合は、所有権がある者に配偶者居住権の贈与があったとみなされ、贈与税の対象となること
〉所有権がある者が物件を譲渡するため、配偶者に居住権放棄の対価を支払った場合、この対価は総合課税の譲渡所得の対象となり、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の対象とはならないこと
2. 空き家特例(被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)
「空き家特例」は、相続等により取得した実家等を売却した場合の特例です。具体的には、相続・遺贈により取得した一定の居住用家屋またはその敷地等を、2027(令和9)年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最大3,000万円まで控除することができます。
譲渡所得は、売却価額から取得価額、譲渡費用等を控除した金額となります。そして、取得価額が不明な場合は、売却価額×5%を取得価格とすることができますが、この場合、譲渡所得は大きくなってしまうケースが多いです。特に相続等で取得する不動産は、遺品の中から取得価額の資料等を見つけなければならず、見つからないケースでは、たとえ売却価格×5%で計算した取得価格が実際の取得価格より低額であったとしても、前者の取得価額で計算せざるを得ません。こうしたケースでは、結果として譲渡所得が大きくなってしまいます。
しかし、この制度を適用すれば、譲渡所得から最大3,000万円まで控除することができるため、取得価額が不明な場合でも諸条件を満たせば、単純計算で売却価額が約3,150万円でも譲渡所得に対する所得税はかからないこととなり、効果は大きいです。
これらの制度は比較的新しいため、認知度はあまり高くありません。しかし、相続対策として、より幅広い検討ができるよう概要を覚えておくとよいでしょう。
| テーマ | 知っておきたい不動産の相続税関連新知識 |
|---|---|
| 執筆税理士 | 税理士法人TOTAL 代表社員税理士・柏事務所所長 沓掛伸幸 |
| 掲載元リンク |
公益財団法人生命保険文化センター |
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